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頭陀袋(ずだぶくろ)とその中身について

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2026.05.20

 さて「頭陀袋(ずだぶくろ)」ですが、これまた様々な呼び方とそれに呼応する多種多様な意味があります。ヅダブクロ(頭陀袋)・サンヤブクロ(山谷袋)・スミブクロ(三角袋)・ゴコクブクロ(五穀袋)・コケブクロ(虚仮袋)・ハンマイブクロ(飯米袋)・タネブクロ(種袋)・ジキブクロ(食袋)・ヌカブクロ(糠袋)・インゲンブクロ(隠元袋)・オバナシブクロ・ブショウブクロ・ドダブクロ・ジュウザブクロ・ソウランブクロ等々、地区が偏っている呼び方もありますが、同じ呼称が東北と九州に点在していたり、微妙に違う呼び名がある場合に、それが訛りなのか、言い間違い(聞き間違い)なのか、今となっては定かではありません。ただし漢字表記でみると意味の違いがはっきりしてきます。


 まずは頭陀袋・山谷袋に代表される仏教の用品としての呼称です。仏教用語である「頭陀」の原義ですが「煩悩の塵垢(じんく)を振るい落し衣食住についての欲望を払い捨てて清浄(しょうじょう)に12の仏道修行に励むこと」とあります。中でも特に修行僧が乞食托鉢(こつじきたくはつ)して歩くことを頭陀行と言い、その際に遊行者が首から掛ける物入れを三衣袋(さんねぶくろ)といいます。これが民衆の通称として頭陀袋と呼ばれるようになりました。山谷袋(さんやぶくろ)はこの三衣袋(さんねぶくろ)が訛ったもので、現在では四国巡礼の装束を扱う多くの業者が山谷袋(さんやぶくろ)と誤ったままの名称で販売しています。三衣袋には「比丘の三衣一鉢(びくのさんえいっぱち)」と呼ばれる物を入れます。比丘(びく)と呼ばれる出家修行僧が持ち歩く内容は、袈裟が三衣「安陀会(あんだえ)・鬱多羅僧(うつたらそう)・僧伽梨(そうがり)」と托鉢用の鉢がひとつです。本来はこの4点だけを入れることが原則ですが、次第に托鉢での供物(米、野菜など)や仏具なども入れるようになります。今日、運搬用で雑多な物を入れる袋を「ズタ袋」というのはここに由来します。「ずたぶくろ」と濁らずに呼ばれていますが、漢字で「頭陀」と表記されることから、本来は「ずだぶくろ」と濁るのが正しい発音です。これを僧侶のように死者の首にかけるのは「死者は仏弟子となり冥途を頭陀遊行して成仏していくものだ」という仏教上の意味が強く出ています。このように民衆に対して「物」を媒介して具体的に仏教の教理を悟らせようとするのが遊行聖の特徴と言われており、「頭陀袋」の呼称はその影響が色濃く出た例と言えます。


 もう一つは三角袋と五穀袋に代表される仏教以前の霊魂感から発生した呼称です。戦前の東北地方では一枚布を三角形に縫って袋を作り、炒り大豆など五穀を入れて(首にかけずに)胸の上に置くところが多くみられたそうです。三角形は以前のブログ「額の三角布」で解説したとおり魔除けの形であり、鎮魂の呪力の象徴です。そして炒り大豆はご存じの通り、節分で鬼を撃退する魔除けの呪物です。これは死霊を荒魂(あらみたま)と怖れた古代日本人の霊魂観念が、死霊を圧え鎮める「タマシズメ」の呪術として形に表したものです。この鎮魂儀式は死の連鎖を防ぐだけでなく、村に繰り返し起こる災害や火事など、幾多の凶事までも鎮めるために祈祷してきた名残りと解釈できます。そして死者は永劫に黄泉の国(闇の国)を彷徨い歩く旅へと出発すると考えられていました。ここで仏教は成仏のために旅立ったのだと意味付けし、魔除けの炒り大豆を入れる五穀袋ではなく、弁当の握り飯を入れる頭陀袋とした時に、民衆の意識は死者に対し怖れではなく哀惜が表現されるという大転換を遂げます。当時の遊行僧たちが民俗の意味を巧妙に転換したところに、日本人の葬法が仏教と強く結びついてきた理由があります。
 「仏教以前の五穀袋」が「仏教以後の頭陀袋」に変化したこの例は、古代葬の葬具が仏教化によって極めて重要な仏教的葬具として意味を放ち、現代まで連綿と受け継がれる習俗となった典型的な事例と言えます。現在でも初盆や施餓鬼供養の供米を三角袋に入れて供える地区が全国各地にあります。以前のブログでも度々取り上げる仏教民俗学者の五来重(ごらいしげる)は、多数ある著書の中で言葉を変えながらも数回にわたり以下の趣旨を論じています。


 民俗がどんどん変化し跡形もなく消えていった行事が多数ある中で、葬送習俗の中にはこのように仏教化したがゆえに残ったものが少なくない。日本仏教は社会の大多数を占める庶民を救済するために「供養」という形に変容していったことにより、多数の古代習俗を形を変えて残してきた。この成立には庶民感情に寄り添う形で布教を行ってきた「庶民的仏教者」と呼ばれる「聖(ひじり)」をはじめとする比丘(尼)、沙弥、遊行僧、三昧僧など底辺を支えてきた宗教者たちこそが着実に今日の日本仏教をつくりあげてきたのだ。と論じています。


●頭陀袋の中身
 袋に入れる物の内容については多岐にわたります。袋の呼び方で入れる中身も違ってきたりしますが、その関連性を避け内容物だけに限って分類すると、大まかに6種類に集約できます。


① 五穀や五種十穀と呼ばれるもので「炒り大豆・炒り麦・黍(きび)・粟(あわ)・蕎麦(そば)」など、先に説明した鎮魂のための呪的穀物です。特に大豆は「まめ=魔滅(まめつ)」に繋がるために「め」が出ぬように必ず炒ってから使用されます。これにネズミの糞を入れるところがあるのは「これは魔除けのための穀物で食べてはいけませんよ」と死者の霊に伝えるためと思われます。


② 握り飯や団子のように旅の弁当となるもので生米や味噌なども入れます。これは霊供をも兼ねています。「霊供(りょうぐ、れいく)」は霊が散乱せぬよう食物にとどめておくもので、盆の霊供が蓮の葉に盛って迎えた霊をとどめ、流しと一緒にあの世に送り返す意味と重なります。


③ はなむけの餞別として、霊が喜んで持って去るような品物を入れます。戦前の代表例として男性には煙草入れと煙管(きせる)など、女性には裁縫道具(糸、針、ハサミ)や櫛、化粧道具などです。このことから四国の伊予地方では、死者の霊が厳島へ行く意味から「死んだ」の隠語として「○○さんは広島へ煙草を買いに行った」とごく最近まで使われていたそうです。(女性の針と櫛は魔除けとの説もあり)


④ 近親者(生者)の爪と髪を入れます。これは二つの説に分かれます。一つ目は爪と髪が死後でも伸び続けることから、不思議な生命力を感じとり死者の蘇生を念じます。二つ目は近親生者が生前の罪・穢れ・病気などを自分の身体の一部に託して、死者と共にあの世に持って行ってもらう滅罪の呪具としてです。死者本人の産髪、産石、へその緒を入れる地方もありますが、これはもちろん次の生まれ変わり「輪廻転生」を意味するものです。


⑤ 明らかに腐敗防止や防臭目的と思われるものがあります。山椒の葉・実、茶葉、木炭、灰、糠、その他にハマゴウの実(蔓荊子という生薬)などがあります。


⑥ 成仏と往生の宗教具として授手印(お手判)付きの血脈(主に善光寺発行)、御印文(善光寺)、御守り札(主に高野山)、念仏紙(六字名号)、各所霊場巡りの集印納経帳などです。これは成仏なり往生なりができるという保証のシンボルであり証明書、手形となります。


 魔除けとして「炒り米」を入れるところもあります。これも「食べるためのお米ではありませんよ」と死者に分からせるために、わざわざ炒り米にするのだそうです。「米の霊力」を深く信じている日本人ならではと言っても過言ではないでしょう。米の霊力に関しては民俗学者の坪井洋文氏の著書から次の文章をご紹介します。
「人間の顕界での一生が死によって霊魂化して幽界に連続し、幽界からさらに顕界への再生というかたちで循環をくりかえす観念が認められるが(輪廻思想)、この観念はまた稲の水田での生産過程が種子化によって稲霊の祭場に連続し、祭場からさらに水田へ再生するというかたちで循環をくりかえす観念と一致するのである。水田稲作民が霊魂や稲霊が永遠不滅であるという観念を普遍化しているのは、彼らが絶対視している水田稲作そのものが、種子を媒体とした稲霊の再生原理にもとづいている。結実して枯死したのちに種子化された稲は、冬の期間に稲霊の再生儀礼によって、春には再び水田で発芽が可能になるのである。稲を耕作する農耕民はその稲によって生命を維持しているから、稲が生命のエネルギーであるとともに、稲の再生力が人間の再生を可能にする霊的な食べ物であった。この稲と人間との一体感を基にして霊的世界と現実とを統合させている循環構造は、おそらく水田稲作民の思考や人間関係の形成に大きくかかわっていると考えてよかろう。」(日本民俗文化体系8「村と村人」より:小学館)

 さて、袋の中身で一番お馴染みの「六文銭」です。実はこの六文銭に関しては時代によって入れる意味が違ってきます。「三途の川の渡し賃」が通説になるのは江戸時代以降です。それ以前の長い期間は「六道銭」と言われており、輪廻の六道をそれぞれを救済する六地蔵への賽銭と考えられていました。さらに仏教以前では和同開珎以前に「まじない銭」として鋳造された無文銀銭を、地神に支払う墓代として墓の四隅に埋めた文献があります。さらに遡って古墳時代の埋葬品である鎮魂の「鏡」に見立てて、庶民が中国からの渡来銭を用いたのが起源とする説まであります。実は八重山地方では戦後まで「勾玉(まがたま)」を入れていた事実があり、「銅鏡」のミニチュア版として銅銭を入れていた可能性を示しています。

 たかが頭陀袋と思っていましたが、深く掘り下げて調べてみると、出るわ出るわ「呪術」や「祈願」の宝庫でした。近親生者の爪と髪を入れること自体初めて知りました。もちろん全国各地の習俗を記載しましたので、関西には必要のない部分もありますが、知っておいて損はありません。今回は葬儀の意味ごとの奥深さを、あらためて感じる文章検索の期間となりました。

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